アートと法律

東京で弁護士をしています。舞台、ミュージカル、クラシックなどのアート、芸術が好きです。twitter: @stephan_lawyer

インターネット新時代の法律実務Q&A

予約していた本が届きました!!

 

日々の仕事に追われていると、勉強の時間がどうしてもおろそかになってしまいますが、やはり日々最新の議論をフォローしていくことは重要であると感じています。

読みたい本と読まなければいけない本がたくさんありますが。。

この本もしっかり読み込みます。

音楽教室での演奏について著作権料を徴収する?

つい先日、JASRACが、音楽教室での演奏について著作権料を徴収する方針とした、とするニュースが流れました。この問題について論争になり話題になりましたので、今日はそもそもなぜこのような問題が起きるのかについて書きます。

 

まず、例えば、私があるミュージシャンの楽曲をコンサートなどで「演奏」することは、そのミュージシャンの演奏権の侵害に該当する可能性があります。

 

著作権法第22条:著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

 

この条文から分かるように、演奏権に該当するためには、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とする必要があるのです。そして公衆とは、不特定または多数の人を指します。

そうすると、コンサートという不特定多数の人に聞かせることを目的として楽曲を演奏することは、原則としてはそのミュージシャンの専有している演奏権を侵害することになるのです。

 

ここで、音楽教室での演奏について考えてみます。

音楽教室での演奏は、例えばグループレッスンなどで先生が生徒に対して指導のために楽曲を弾いたり、生徒が練習曲を披露することがあると思います。

JASRACは、このような演奏が公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすると言っているのです。音楽教室のこのような演奏にこのような目的があると言えるのでしょうか。今回のJASRACの判断について、今後どのように展開していくのか見守っていきたいと思います。

 

JASRACの今回の問題は、著作権法の趣旨や目的を再考するいいきっかけになったのではないでしょうか。

著作権法の目的は、「著作権者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」(著作権法第1条)にあります。

著作権者等の権利保護とは何か、何が文化の発展に寄与するのか。ストリーミングや様々なサービスが生まれる現在。その現代的意義については再考する必要があるように思います。

 

ゴルフシャフト事件

ゴルフシャフト事件(知財高裁平成28年12月21日判決)について書いていきます。

前回のブログでは、TRIPP TRAPP事件について取り上げたが、今回取り上げるゴルフシャフト事件も、 TRIPP TRAPP事件と同様、応用美術の著作物性が論点となった事件です。

 

1 ゴルフシャフト事件の応用美術についての判旨

まず、判例は、「著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。」と判示しました。

つまり、応用美術であるからと言って、その点をことさらに特別視しないと言いきったのです。

次に、「また,応用美術には, 様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,美的特性の表現のされ方も 個別具体的なものと考えられる。 そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属する ものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑 賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはい えず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作 物として保護されるものと解すべきである。 」と判示しました。

この部分は若干分かりにくい表現ですが、結論からすれば、「美術の著作物」にあたるか否かは、著作権法2条1項1号の著作物性の要件に該当するか否かによって判断すべきということです。「高い創作性の有無の判断基準」は不要ということです。

また、「もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にか なう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る 範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が 課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって, 応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が, 上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても, その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却さ れたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じると は解しがたい。また,応用美術の一部について著作物性を認めることにより,仮に,何らかの社会的な弊害が生じることがあるとすれば,それは,本来,著作権法自体の制限規定等により対処すべきものと思料される。」と判示しています。

この部分は、応用美術について高い創作性の有無の判断基準を設定しなくても社会生活に過度な制約は生じないということを言ってます。これは、応用美術が実用に供するものであるから、著作権を認める範囲を広範にすると他の創作活動に影響が出るのではないかという懸念に対するものです。

 

2 TRIPP TRAPPとの比較

ゴルフシャフト事件も、 TRIPP TRAPP事件と同様、応用美術の著作物性の判断にあたっては、高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえないと判示しました。つまり、この2つの判示は、細かな理由づけについては差異はあるものの、結論としては、同じであるといえます。

TRIPP TRAPP事件

今日は、TRIPP TRAPP事件(平成27年4月14日知財高裁平成26年(ネ)第10063号)について、応用美術の点に絞って書いていきます。

1 TRIPP TRAPP事件の概要

TRIPP TRAPP事件とは、幼児用椅子の著作権を有するA社が、6種類の幼児用椅子の製作、販売をするB社に対して、著作権等を侵害していると主張して、B社製品の製造、販売等の差止め及び破棄を求めて争ったものです。

これに対してB社は、A社の幼児用椅子の著作物性を争い、著作物性の有無が争点となりました。

 

2 著作権法の条文

著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法第2条1項1号)と定義し、同法第10条に著作物に該当するものを例示しています。

本件幼児用椅子は、実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする、いわゆる応用美術ですが、本件幼児用椅子が、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(同法第10条1項4号)に該当するか否かが問題となります。

 

3 応用美術について

著作権法第2条2項は、「この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。」と規定しています。しかしながら、同条項は、美術の著作物の例示規定にすぎず、「例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである」と裁判所は判示しました。

そして、その判断にあたっては、「応用美術は,…表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」との基準を示しました。

従来の裁判例では、応用美術の保護基準について、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的観賞の対象となり得るような美的創作性を備えているか否という点をもって決することが大勢でした(本件の原審も同様)。

しかしながら、本知財高裁は、

「応用美術には様々なものがあり,表現態様も多様であるから,明文の規定なく,応用美術に一律に適用すべきものとして,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは,相当とはいえない。」「「美的」という概念は,多分に主観的な評価に係るものであり,何をもって「美」ととらえるかについては個人差も大き」いなどの理由から、従来の大勢を占める考えではなく、上記の基準を採用したのです。

 

4 まとめ

本件は、応用美術について、従来の大勢を占める考えとは違う考えを示した裁判例といえます。なお、訴訟では、A社の幼児用製品の著作物性は認めたものの、著作権侵害に関するA社の主張は排斥されました。